2015年12月21日月曜日

柚子と時鳥とジャッジメント

by 井上雪子


国際宇宙ステーション(ISS)から油井さんが帰還され、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』が公開され、冬の星座は鮮やかににぎやか。「柚子を取りにおいで」というお電話をいただいて持ち帰ったその小さな果実、搾れば冬至という語が匂うようです。

柚子の実る庭のお向かいは神社、久しぶりにおみくじを引けばまず目にしたのが「ほととぎす」という文字。おやおや、神様、お見通しなのですね。「ほととぎす 高鳴くこゑも聞く人の 心ごころに変わるものなり」。なるほど、目に見えないものを敬う極意みたいな心持ちです。

ちょうど、「ジャッジメントを手放すということ」というサブタイトルにひかれて、水島広子さんのトラウマからの回復論を読んでいるのですが、普通の人にも理解可能な日常用語で書いてくださってはいても、「ジャッジメントを手放すということ」の本質はとても深く、「君、かわいいね~」と平気で言ってしまう私には、何がよくわからないのかを考えなくては、というようなぼんやり感が残ってしまいます。

それでも、「ジャッジメントを手放すということ」は何か大切なことだという直観があります。そして、「ほととぎす 高鳴くこゑも聞く人の 心ごころに変わるものなり」、ここにはジャッジメント(=ある人の主観に基づいて下される評価)を手放すということに似た安らかな何かがあります。豊かな批評や表現の自由を、「戦いを始めないための問いの立て方」から始める、そんなところまでじっくり、この不可視の時鳥の声を聞こうと思います。




 水島広子 『トラウマの現実に向き合う(ジャッジメントを手放すということ)』(創元社、2015年)

2015年12月16日水曜日

前向きな年末

by 梅津志保


「大丈夫か、地球温暖化」今年は、12月に入っても暖かい日が多い。寒くないのはうれしいが、温暖化が気になる。

そんな中、宇宙飛行士の油井さんが、宇宙から帰ってきた。

インタビューを見ていると「日ごろ準備をしていたから重要なミッションをクリアできた」「自分の名前に亀が付くから、月のうさぎに勝つためには月の先にある火星を目指す。自分は、これから、その役割を担うようになっていきたい」「アメリカやロシアの人と過ごす生活の中で、国の難しい問題があっても、チームの中で自分がそこでなす役割がある」など、終わりではなく始まりであること、明確なビジョン、そして前向きな気持ちが生む力を教えてくれる。

心配しているだけでは、何も変わらない。どうすればクリアできるか、経験と周囲の人へ感謝すること。

今年も残すところ半月。終わりではなく次への始まりを思う、そんな前向きな年末を思う。

2015年12月7日月曜日

空飛ぶ性善説

by 井上雪子


20年ほど前になるが、真冬のフィンランドにオーロラが観たくて行ったことがある。曇りばかりの、SUOMIというその国の冬の夜は、宇宙的なその光をやすやすとは見せてはくれなかったけれど、長く心に残るあたたかさをたくさん持たせてくれた。たとえばそのひとつが、国内線旅客機のスイングドア。

操縦席と客席の間は1メートルほどの木の板のような、簡易なスイングドアで仕切られているだけ。子どもがそこに立てば、パイロットと同じ目線で進行方向の空を眺めることができる。マレーシアとケニアしか行ったことがなかった私とて、これにはちょっと驚く。性善説そのもの、あまりの無防備さ。しかし、子どももお年寄りも、本当に大切にされているのが、小さな事柄から見て取れた。

海外旅行がどこであれ、心配を伴うことになってしまった今、フィンランド国内線のあのスイングドアが妙になつかしく、あれはあのままでも大丈夫な世界であってほしいと思う。これが先進国だと思わされたヘルシンキの洗練された文化の根、民族的には黒髪の、アジアに親しい血族。北極圏のその町で乗せてもらったカローラ、俳句を知っていたタウン誌の編集者のおじさんは今も元気だろうか。そしてサンタクロースは、今年も 赤いお鼻のルドルフを呼びながら旅の仕度を始めただろうか。

2015年12月1日火曜日

バトンタッチ

by 梅津志保


「平和な時にしか妖怪は語られない。」水木しげるさんが語った言葉として、NHKのニュースで紹介されていた。

また、先日、ETV特集 戦後70年企画「ドナルド・キーンの日本 前編 日本文学を世界へ」を見た。ドナルド・キーン氏は、余情という日本人独特の価値観について考え続けたという。

身近に戦争がある状況では、妖怪も余情も存在しない。戦争をくぐり抜けて生きて来た二人の言葉は重い。

俳句を作り、読み、語る。文学が近くにあることを当たり前と思うことなかれ。戦争を知らない私が、戦争について考えるのはこんなアプローチからかもしれない。
小さな詩形、俳句を、そして、平和をこれからもバトンタッチできるようしっかり考えていかなければいけない。