2015年4月26日日曜日

通販と八十八夜

by 梅津志保


普段飲んでいるお茶の葉は、お店に電話をして注文、配送してもらっている。茶葉を売っていた店舗が閉店して買えなくなってからはこの方法にしている。送料もかかるので、つい多めに、ついでに実家にも・・・と店に電話をして配送を頼み、ほっとしたつかの間、ニュース番組で「もうすぐ八十八夜」と茶畑の様子を映すのを見て「しまった、もうすぐ新茶の季節だった!もう少し待っていれば!」と思った。

立春から数えて88日目にあたる5月2、3日。もうそんなに経ったんだという気持ちだ。今年は4月の雨が多く、春の陽を浴びていないからか、まだ体が春に慣れていない気がする。それでも、今日はいい天気で、蜂が庭にぶんぶん飛んでいたり、隣家の花壇のチューリップが大きく咲いていたり。春の合図は、たくさん私の周りにあったのに気が付いていなかった。

これを反省に、この季節のお茶の配送は、きっと気を付けるようになるだろう。そして、家で待つ通販だけに頼らずに、たまにはお店に、外に出てみたい。

新聞を読んでいいことは、ネットだと自分の気になる記事しか読まないが、新聞だといろいろな情報が入ってくるからいいという話を聞いた。

目的の物を手に入れるという効率以外にも、寄り道回り道、外に出る時間を何かにつなげたい。

2015年4月20日月曜日

ささやかな変化

by 井上雪子


三才年上の姉と私は、外見はよく似ていながら、性格とか性能は大きく異なる。この差異があるので仲良く映画を観に行くことができる、そう思うくらい異なる。

たとえば家で『バクダッド・カフェ』(1987年制作の西ドイツ映画)を観る前のこと。「たしか歌がすごく良かったよね」と、姉。私にはビジュアルな後半のストーリーを少し観たような記憶があるばかり。けれど、DVDを観終わった後、たしかにジェヴェッタ・スティールが歌うテーマ曲「コーリング・ユー」がしばらく私を呼び続けた。姉は耳の人、私は眼のひとなのだろう。

わけのわからないガラクタをさっさと片付け、 赤ん坊をあやし、少女を友達と呼ぶ、 でぶっちょのヤスミンのささやかな言動が砂漠の小さなホテルを変えていく。

簡素という豊かさ、おかしみ溢れる心の置きどころ、 『男はつらいよ』の寅さん、『かもめ食堂』にも通底する何か。 人という生きもの、 現実の生活、旅の途中の、そして見えないけれど呼びあい、揺らぎあうすべて。

失職して脱力状態の私に『バクダッド・カフェ』、 「なんだかわからないけれど、癒される」、そういう多くのファンの気持ちがストレートに わかった。


でも 私たちは知っているの
ささやかな変化が
もうすぐそこまでやって来ていることを
私はあなたを呼んでいるわ
ねえ、聞こえるでしょう?
(「コーリング・ユー」)


バグダッド・ホテルに予約をいれて、 東へと向かう列車に乗ろう。 何かが繋がる気配を想う。 姉は西へ行くらしい。

2015年4月13日月曜日

兎走る

by 梅津志保


国宝絵巻「鳥獣戯画」の本格的な修理が終わり、4月末から特別展が東京で開催される。

鳥獣戯画の作者は、誰なのか詳しいことは分かっていないらしい。でも、100年経った今でも、私たちは、つい笑顔になって作品を見る。そんな作品を残した作者、いい仕事をしているなぁと思う。

そして、この絵には説明する文字が無いことから自由に想像できるという楽しさがある。
俳句につい理屈や説明を入れて「あー、違う違う」と思うことがある。私を置いて、兎は走り、蛙は笑う。もっと自由で、もっとよく見て。

2015年4月6日月曜日

君が僕を知ってる

by 井上雪子


♪いままでして来た悪いことだけで
僕が明日有名になっても
どうってことないぜ、まるで気にしない・・・
「君が僕を知ってる」(RCサクセション)


3月と4月の境、不安と希望がシャッフルされるように大きく揺れる。 見送り、見送られ、ひとりになり、月のない空からやって来る時間にテレビをつけたら、ビッグスターが選ぶ春の歌みたいな番組、なぜか木村拓哉さんがどんな歌を選ぶのかが気になって(思いがけない歌を選びそうな気がして)、ぼんやりと観続けた。
そして、「君が僕を知ってる」が流れて来た。

歌いたいことを歌いたいように歌って、時に発売禁止をくらうキヨシロー、たったひとり理解者がいてくれるということの意味の深さ、それを超国民的アイドルの木村君が受け取っていてくれる。なんて、ブラボー!なんだろう。うまくできたりダメだったりするお互い、「愛し合ってるかい?」ってキヨシローの声がする。

東大に合格したら100万円、金メダルを獲得したら1000万円・・・、明快な目標が提示され、キャラで武装してゆくこどもや若者たち。

暮らしはもはや戦国時代とテレビは告げているけれど、優等生ばかりでも息がつまるし、ヤンキーばかりでもこわい。

桜はどの花もみんな同じに色かたちにみえる。けれど、「最後まで散らなかった桜はほかの花より優秀」ってことじゃない。美しく無駄のない動きは最速、でも数えきれない敗退者たちの努力をひとつの金メダルがチャラにしたりはしない。

そんな素の感性、負の価値の意味を「わかっていてくれる」君がいるはずなのだ。 誰ひとり同じじゃないから、ぶつかって跳ね返って繋がってキラキラする。
キヨシローが投げかけ続けた何か、たぶんきっと子どもたちの深くにも届いていくと思う、そんな4月が始まった。